目次
堀江貴文 著『君はどこにでも行ける』(徳間書店)
この本の第1章(日本はいまどれくらい「安く」なってしまったのか)に、プロスポーツのグローバル化の話がありました。
かい摘みます。
安くなった日本のチャンス
アジア各国の発展が目覚ましいのに対し、日本経済の停滞は著しい。日本は安売りの時代に入った。
かつてバブル期に日本がアジア各国でブランド品や洋服、土地、企業を買い叩きまくった現象が、いま完全に逆転している。
日本に、なぜアジアの観光客が押し寄せているのか?単純な話だが、日本は、安くなってしまったのだ。 (p.27)
でも、安くなったのは悪いことではなく、グローバルな視点で考えれば、むしろチャンス。日本には高度に整ったインフラ、豊かな文化資本、地の利がある。
日本は経済発展ばく進中のアジアの中心地にあり、(中略) 伸び盛りのアジアマネーを、うまくすれば総取りできるポジションにいる。(中略) 日本が買い叩かれている。結構なことだ。アジアマネーの呼び込みを成功させて、未来型のグローバルビジネスを構築していく絶好のタイミングだ。 (pp.32-33)
プロスポーツのグローバル化
ウィンブルドン現象
テニスの全英オープンでグローバル競争の結果、海外の選手ばかり活躍し、地元イギリス勢がほとんど活躍できなくなったという現象。
サッカーでも同様に、イギリス一部リーグ、プレミアリーグの強豪チームでは自国の選手が少なくなっているが、スポーツビジネスの仕組みを考えれば、それは正常なこと。
スポーツビジネスの根幹は、強いチームをつくること。(中略) 強くなり、試合に勝ち、世界中からお金が集まる。するとリーグ全体が盛り上がり、スタジアムの環境が良くなり、自国民の選手の実力も給料も上がる。結果的に、その国の競技全体のべースアップが叶うのだ。 (pp.35-36)
グローバルに適応した大相撲
ウィンブルドン現象を受け入れ、グローバル化に対応して、アジアマネーを上手く取り込めているのが大相撲。
世界中から優秀な選手を入門させ、トップの横綱がモンゴル勢ばかりでも、ファンは世界中に広がり、その放映権料を得られる。
プレミアリーグの成功例
以前は、スタジアムは古いし、フーリガン騒動はあるしの状態。
そこにメディア王ルパート・マードックの衛星放送会社が大手スポンサーに。スタジアムの改装、フーリガンの一掃、地上波から衛星放送へ移し、世界で配信していく戦略へ大改革。
瞬く間に、世界中の投資マネーが集まる巨大リーグへと変貌した。
Jリーグの例
2013年にコンサドーレ札幌は、ポルトガル1部リーグでプレーした初めてのベトナム人で、ベトナムの英雄的選手のレ・コン・ビンを獲得。
ベトナムでの放映権料は高く売れ、試合を見るためのツアーは売れ、札幌には豊富なベトナムマネーが流入し、アジアでの知名度を上げることになった。
2016年からは、期限付き移籍で「ベトナムのメッシ」の異名を持つグエン・コン・フォンが水戸ホーリーホックに加入。
横浜FCには、同じく期限付き移籍で「ベトナムのピルロ」の異名を持つグエン・トゥアン・アインが加入。
有望な選手の獲得で、アジア新興国の投機マネーを取り込む流れに期待。
発展するアジアの優秀な人(選手)が集まる国(トップリーグ)になれるか
サッカーベトナム代表の裏に電通ベトナム
Jリーグとベトナムサッカーについて調べていると、興味深い記事を見つけました(アジアサッカー研究所『日本企業がこぞってスポンサーに、サッカーベトナム代表の何が魅力なのか?』)。
どうやらベトナムの電通が、サッカーベトナム代表のマーケティングを担当して、日本企業やJリーグとつないでいるようです。
1994年のカズのセリエA移籍とリンク
ビジネス的な魅力から実現したように見えるベトナム人プレイヤーたちのJリーグ移籍。
この移籍が、1994年に三浦知良選手がアジア人で初のセリエAプレイヤーになった移籍と、状況がリンクするという声があるようです。
そう言えば、カズ選手のときも1年の期限付き移籍でした。
その後、1998年に中田英寿選手がセリエAに移籍して活躍。それから少しずつ、ヨーロッパのクラブで活躍する日本人が増えていきました。
それと同じルートを辿るならば、数年後にはJリーグで本格的に活躍する選手が現れ、それと並行して代表チームが強化。そのうちワールドカップの出場を日本と争うライバル国になっていく。
そうして、アジア新興国のサッカーが成長すれば、アジアカップやAFCチャンピオンズリーグが、今のEUROやUEFAチャンピオンズリーグのような、世界のサッカーファンが注目するスポーツコンテンツになる。
そのときにJリーグが、アジアの優秀な選手が集まるトップリーグとして存在できるか。
それが日本サッカー界の大テーマであり、Jリーグのアドバイザーも務める著者の堀江さんの訴えなのかもしれません。
九州のチームが力を入れるべき戦略
陽岱鋼選手のFAで北海道経済を心配する紙面も
サッカーほど国際的なスポーツではありませんが、野球でも、北海道はアジアマネーを呼び込んでいました。
以前の記事の中で、事例として紹介されていました。
(「台湾・香港向け訪日観光サイト創業者が語る熊本におけるアジア戦略」尚絅大学)
野球が国民的スポーツの台湾のスター選手、陽岱鋼選手。
所属の北海道日本ハムファイターズの試合がスマホで見られるパ・リーグTV。その会員の10%が台湾人と言われるほど、台湾人の注目を集め、観戦ツアーも人気だったようです。
今シーズンでFAになった陽選手ですが、その北海道経済の打撃を心配する声や、移籍先として交渉している楽天イーグルスは、球団経営が良くないという噂があるらしく、陽選手の台湾人気も獲得する魅力の一つにあるのではないかという話もあるようです。
北海道のチームに習って
コンサドーレにしても、日ハムにしても、北海道が事例として挙がるのは、たまたまなのでしょうか。それとも、その土地柄みたいなものがあるのでしょうか。
本来は、アジアに近い九州のプロスポーツチームが特化していって、特色を出しても良さそうな戦略だなと思いました。
日本がグローバルな立ち振る舞いができない理由
リニア的な発想の限界
著書『君はどこにでも行ける』を読んでいて考えたのは、日本経済がグローバル化で飛躍できないのは、バブルの経験が大きいのかもしれないなということでした。
まだまだバブルを経験した世代が、社会で偉いポジションにいるので、停滞した日本経済を立て直そうとするときに、「『Japan as No.1』と言われた時代をもう一度」という発想に陥って、グローバル化と成熟社会という変化に合わせた戦略が出てこない。
ある種の「イノベーションのジレンマ」のような力が働いているのかもしれないなと思いました。
昔の栄光を取り戻すという、過去からの延長線上に答えはなく、それを一度捨てた、新たな視点での発想からの戦略が必要だと、ホリエモンに言われているようでした。
バブルのツケは、まだまだ大きいのかも。
(参考文献)
『君はどこにでも行ける』堀江貴文