熊本者(くまもとモン)GO
ごく普通の人からちょっと変わった人まで、色んな熊本者にお話を伺っていきます。
そのテーマは「熱」。
情熱を注いでいること、目標に向けて努力していること、今ハマっていることなど、自由に語っていただきます。
(くまもとモンNo.2)
入交 律歌
小国町
森林組合職員
「林業の現場」と「情報発信」がキーワードになった大学時代
林業に興味を持ち始めたのは、いつ頃ですか。
高校2年のときです。
進路を考えて文系理系を選ばないといけないときに、テレビや教科書で「今は環境問題がヤバい」と言っているから、きっと10年後には環境ビジネスが盛んになっているんだろうなと思って。食っていくなら林業だろうと考えました。
そうすると進学するのは何学部になるんですか。
生物資源科学部という、農学部と理学部のハーフみたいな学部です。
当初から、大学院まで行くイメージだったんですか。
いや、全然。
学部で勉強しなかったんですよ。代返とかして飲んでばっかりいる普通の大学生をしてしまって。そしてあるとき、「やばい、私、勉強するって言って、全然してないやん」と、はっとして。
それから、あわてて勉強して、大学院に行きました。
大学院は九大(九州大学)でしたよね。大学院では、結構、勉強されたでしょう。
大学院では心を悔い改め、勉強しました。
やっぱり九大は、学部から入っている子って、本当に頭が良いんですよ。理解力とか分析力とかレベルが高い。本当に頑張らないと全然付いていけないんです。
だから、今まで手に取ったことがないような難しい本を読んだりとか、今までしていなかったことをして、色んな調査に連れて行っていただいていました。
そのときに、私は参考書とかを読んだり、みんなで何か考えるよりも、フィールドワークのほうが性に合うなというのを感じて。机の上で分析するだけじゃなくて、いつか地方の現場で働きたいなと思いました。
ただ卒業後の就職は、林業関係の仕事ではなかったんですよね。
福岡のマスコミ系の会社に入りました。
九大の勉強はすごく良い大切なことを学んでいるはずなのに、偉い先生とレベル高い九大生の間のアカデミックな世界で完結しちゃっている感じがあって。「もっと分かりやすく言わないと、みんなに知ってもらえないよ」というのが、大学のときにずっとあったので、まずはマスコミに行って林業のために情報発信の方法を学ぼうと思いました。
そして、取材している中の1つのNPO法人から、人がいなくて本当に困っているので、林業とか地方のことが好きだと言っているあなた、来ませんかとお声掛けいただいて。そのグリーンツーリズム関係のNPOで3年ぐらい勤めて。
それから今の小国町森林組合です。

「林業」と何を掛け算できるか
今は切り頃の木が多いんですよね。
そうです。今、見ている山は、ほとんど切り頃なんです。これ以上放っておいたら大きくなり過ぎて、切るのも大変。切ったあとに板とかにするんですけど、その機械にも入らない。それくらい太っちゃうんですよ。
切り頃には何年ぐらいでなるんですか。
50~60年です。
戦後、焼け野原になって家を建てないといけないから、一気に切って、山が裸になったので、一気に植えたんですね。
それが今、戦後70年経って、ちょうど切り頃なんですよ。だから、切って、次を植えないといけないタイミングなんですけど、輸入材などと較べて高かったり、沢山の安定供給ができなかったり、使う側の業者や消費者の気持ちが木から離れていたりで、買ってもらえなかったりするわけです。
メインの売り先は建物なんですか。
量を稼ごうと思ったら、建物です。家1棟だったら、木工品の何百倍、何千倍と出るんですよね。
なので、古き良き考え方でいけば、建物に使っていただきたい。建物のよく見えるところに、私たちが頑張って育ててきた節のない良い材を使っていただきたい。それが、昔から林業をやっている方の価値観です。
今までの価値観の中では、色が明るくて木目がつまって節がないというのが、最大に美しいものなんですよ。
でも、今の若い人で木が好きな人たちは、そういう木材を求めていない。節があって黒いほうが好きという人もいます。今までの価値観とは違う、新しい価値観が生まれてきているというのもあって。
「味があって良いじゃん」みたいな。
そうそう、日本の木を使うことが良いのは分かっているけど、外材みたいな黒いほうが好きとか。だから、その若い人の価値観に合った商品も企画したほうが買ってもらえるかもしれない、でも、もうみんなおじいちゃんという。ここがキツイところかなと。
建物の比重が大きいのは分かるんですけど、アウトプットのバリエーションを増やすのも大事かもしれないですね。これからは、マイホームを建てるという価値観も薄くなっていくかもしれないですし。
もうちょっと木を使うことの敷居を下ろさないといけないんだろうなと。九州国立博物館で使われていますと言われても、「すごいけど、それで?」みたいなところもあるので。
「私でも、使えるんだ」とか、「家のここに使えるんだ」とか、自分の暮らしの実体験に反映できるような情報を出さないといけないんだろうなと思います。
小国杉の質の良さは伝わっても、それが「自分ごと」にはなりにくいのかもしれないですね。
その辺りが非常に下手な産業なので、林業界だけで話をしていたらダメだと。大学院のときに思ったあの感じになってしまってはいけないと。木材関係のおじちゃんと、行政と、木工職人と、私とみたいな、町の中で林業の仕事をすればするほど、そっちに陥るので。
内々だけで完結して、外に伝わらない感じ。あの大学院時代の違和感ある状態とカブると。
だから色んなクリエーターの方にも関わっていただきますし、一般の木材に関わっていない人とも話していきたいですし。いかに異業種と関われるかが鍵かなと思います。

林業は「職人気質で口数少ないシャイな人」
小国杉の商品は、どんなものがあるんですか。
オーダーメイドで木工品を受けていて、何でも作ります。テーブルやベッド、おもちゃも作るし、結婚式用のウェルカムボードや表彰状も作るし。パンフレットにはほんの一部しか載ってなくて、ウェブのほうに増やしているところなんですけど。
小国杉の木工品のオーダーメイドとか、面白いなと思いますけどね。興味ある人はいるけど、まだまだそこの層に届いていないのでしょうね。
そうなんです。例えば、ノベルティの受注が得意な会社さんと組んで、代わりに売っていただくとか。森林組合だけで草の根でやっていても難しいところもあるので、ちゃんと大きいところともつながって、損をしないお話を組み立てていく。そういったこともしないといけないですね。

入交さんに、それだけ林業が刺さっている理由って、何なんでしょうね。
取材とかで、「入交さんは、本当に小国杉が好きなんですね」と、よく言われるんですけど、別に小国杉という『木』そのものが好きというわけじゃないんです。もちろん、好きなのは好きですけど。
小国杉が好きと言うよりは、山が荒れると魚がとれなくなるとか、山から流れてくる鉄分とかミネラルが入った土があるから、農業ができているとか。大雨が降ったときに、土砂崩れを防いでいるのも、林業がしっかりなされている立派な木であるからこそ、地面に根を張って、ちゃんと山を支えるとか。
林業は直接的じゃないけど、何かの下支えになっている産業だと思うんです。農業もだし、建設業もだし、水産業もだし。日々の暮らしの飲み水や空気もそうですよね。
確かに、身近じゃないように見えて、色んなことに関連していますね。
食べ物とかと比べて、自分に直接関係がないように見られるけど、下支えとしてすごく大事なもので。それを生業として粛々とやっている町の人の生き方、在り方みたいなのが好きですね。
ここがすごい刺さる、私は。
下支えになる大事なことを粛々とやるのが美徳で、カッコ良いところ。反面、だからこそ、林業という産業が上手に伝わっていなかったりするのかもしれませんね。
そう、そんな感じ。
男の人の背中を見て、「わー、カッコ良い、あの人」と思ってくれる女の子もいるけど、もうちょっと気持ちは伝えようよっていう感じ(笑)
「この人、シャイであまり喋らないけど、実はこういう人でね」と伝えたら、好きになる女の子も結構いるわけですよ。そういう男の人みたいな感じですよね、林業って。
そのシャイな男は、急には口数多くならないわけですよ。だから、その間に入って「実は、こういう人でね」と伝える役割は大事だと思います。入交さんはその役割なんですね。
そうなりたいです。まだまだ修行中ですけど。
あと、伝えるのは双方向なんでしょうね。そのシャイな男は、女性の好みとか気持ちがよく分かっていないみたいだから、その人に分かりやすい言葉に変換して、お互いに伝えてあげないといけないのかも。
そうです、今まで山の人が大切にしてきた価値観をお届けすることも1本の柱として大事にしていく。それと同時に、今の若い人の価値観に合った柱も立てていかないといけないなというところです。
きっと、今まで粛々と良い木を作ることに専念して、そういう挑戦をあまりしてこなかったからと思うんですが、小さなおもちゃやノベルティとかを作っていると、「そんなの作ってどうするんだ」みたいな声もあるんです。
でも、意外とやってみたら売れていくんですよ。
やってもみないで言うなよって感じですね。まず試しに、やってみようよというね。
だから、手当たり次第というわけではないですけど、何でもやってみるという感じですね。
それこそ、取り上げられていた移住定住の松井ちゃんとかと組んで、空き家を改修するためのDIYを小国杉でやるワークショップをやりたいねという話をしていたんですけど、まずはそうやって町の若い人が何かをするときに、小国杉を使えば良いじゃんという価値観を持ってもらう。そして、それが当たり前という感じにしていくのは、やりたいことですね。
そうやって、小国杉や林業と色んな人が関わりを持つようなキッカケをこれからもつくっていきたいです。
小国町森林組合
http://ogunisugi.com/
※記事のお写真はすべて入交さんよりご提供いただきました。
クラクラ佐藤
(レベル3)