
熊本人物キュレーション<地域おこし協力隊編>
熊本の各地域で活躍する地域おこし協力隊の方の紹介を通して、その地域の魅力を発見していきます。
今回は熊本県小国町の地域おこし協力隊、松井美佑紀さんにお話を伺いました。
小国町の熱い人たちに惹かれて
熊本市の出身で、長崎県の大学で地域社会や町づくりについて学んでいました。大学1年のときに林業の本を読んだのがきっかけで興味を持って、卒論は林業について書くことにしていたんです。そのときに『熊本 林業』で探して出てきたのが、「小国町森林組合」でした。それで小国町の林業について勉強するために小国に来たのが最初のきっかけです。
卒論を書くために現地に行かないといけなかったんですね。
フィールドワークを必ずしないといけなかったんですよ。他のゼミ生も地元に帰って、担当者の方にアポイントを取って話を聞きに行っていました。
それで小国町に話を聞きに来たんですね。
最初、電話したときに、忙しいかなと思って、資料だけもらおうと思ったんですよ。そうしたら、「ちゃんと現場を見に来ないとダメだろう」と事務局長さんに言われて。「ちゃんとフィールドワークしないと」と思って参加したのが、小国町が約20年取り組んでいる『九州ツーリズム大学』というグリーンツーリズム関係の勉強会でした。
九州ツーリズム大学。
9月から3月までの半年間、毎月2泊3日で集まって、先生の話を聞いたり、フィールドワークをしたりという勉強会をしていました。今は不定期開催になっているんですが、全国のグリーンツーリズムの先駆け的な組織だったんですよね。それに来いと言われて、ビビりながら(笑)、行ったのが最初です。
半年にわたって毎月2泊3日ずつあるって、結構しっかりありますね。
がっつりあります。それで毎回、懇親会があるんですけど、そこで地元の方が語られることがすごい熱かったんですよ。「俺はこんな町にしたいんだ」とか、「もっと勉強して、こういうことがしたいんだよね」みたいな話をされていて。
それまでにも、色んな自治体のフィールドワークに行っているんですけど、そこで聞こえてくるのは、「うちの町はダメだもんね」みたいなネガティブな意見が多いんです。だから、「俺はね、この町をもっと良くしたいんだよね」みたいなことを熱く語られているのが、すごく衝撃的だったんですよ。
町のことを自治体任せにするんじゃなくて、当事者意識がしっかりあるんですね。自分たちの町なんだから、自分たちで良くしていこうみたいな。
それから、この町の人と将来何かお仕事ができたら良いなというのが目標になりました。卒業しても継続的にここに来られるだけのつながりを作って、いつかここに呼んでもらえるように頑張らないとなと思ったんですよね。
そのときの目標が、今達成できているんですね。
それで、無事に卒論を書いて卒業して、その後の進路はどうされたんですか。
普通にOLをしていました。熊本の証券会社に勤めるのが、卒論のフィールドワークに行くときから決まっていて。
そっか、もう夏前とかには内定が出ますね。
そうです、内定を頂いていて。でもやっぱり、地域おこしみたいなことが勉強したい、携わりたいとは思っていて。その会社は天草に支店があったので、天草支店の配属を希望して、天草で営業の仕事をしながら、プライベートで商工会や観光協会の人とつながってイベントの手伝いなどをしていました。
天草にはどれだけいらっしゃったんですか。
天草は8ヶ月ぐらいです。1年もいなかったんですけど、いまだに、「もうすぐ、このイベントがあるから手伝いに来て」とか連絡もらって、遊びに行ったりしています。
離れてもつながっているんですね。
8ヶ月経って、天草を離れたのは異動ですか。
いや、異動じゃなくて。小国町の方から連絡があったんです。「松井ちゃん、こっちで地域おこし協力隊の枠ができたよ、来ない?」と教えてもらって。
天草で色んな活動もできているし、社会人として半人前で行くことになってしまうので、これで良いのかすごい悩んだんですけど、考えるぐらいだったら行ったほうが良いかなと思って飛び込んだって感じです。
暮らすように旅する「小国暮らしツアー」
地域おこし協力隊として担当されているお仕事はどういったことですか。

移住定住です。
突然やって来られることもある移住希望者の方の対応をしたり、空き家を探しに行ったり。今はホームページを作ろうとしていて、移住定住の『小国暮らしの窓口』というホームページの原案を作ったりしています。あとは、9月に移住を検討されている方向けのツアーをしようとしていて。
移住検討中の方に向けたツアーですか。
9月17日(土)から19日(月・祝)の2泊3日の日程で企画しています。
今、3ヶ月に1回ぐらい、関東にセミナーに行っているんですけど、そのときに、「でも、なかなか行くきっかけがないんだよね」みたいな話をよくされるので、小国に来る良いきっかけになるようなツアーを準備しています。そのときに家も、仕事も、人も、まとめて紹介できたら良いなと思っています。
ツアーの内容はどんな感じですか。
まず、小国での暮らしを体験してもらうために、宿泊先は農家民泊を準備しています。そして、スーパーや病院、保育施設など、生活に必要な場所を見学していただいたり、集落を散策しながら空き家の紹介もします。あとは、移住のことや仕事のことなど、相談できる担当者との個別相談会も考えています。
そのツアーでは、先輩移住者の方とも交流できたりするんですか。
そうですね、先輩移住者のお宅を訪問させてもらったり、夜には先輩移住者との交流会も企画しています。

民泊で地元の人と交流できて、懇親会で先輩移住者の方の声も聞けて、観光旅行では分からないリアルな小国の生活が体験できるので良さそうですね。これは家族で参加じゃなくても、一人でも参加できるんですか。
はい、小国町へ移住をお考えの方であれば、お一人でも参加できます。
ツーリズム大学で来ていたときのイメージと、実際に住んでみて、何か小国町への印象に違いがありますか。
「意外と不便じゃないな」というのはあります。コンビニもあるし、スーパーもあるし、生活していて、あんまり不便さを感じていないですね。あと、生活してみて感じたのは、小国町の人が、皆さん、とてもフレンドリーです。私みたいな、来たばかりの誰かよく分からない人間にも、すごく声を掛けてくださったりして、よそ者に対しての壁をあまり感じないんですよね。
コミュニティに入り込みやすい雰囲気は、移住者にとっては、一つ魅力かもしれないですね。
すごくフレンドリーに声を掛けてもらえるので、それが嬉しいというか。この集落に溶け込んでいる、受け入れてもらっているんだなというのを感じられるので、移住ビギナーの人にも住みやすい町なんじゃないかと思います。
あとは、地域おこし協力隊として、移動式のカフェ屋台もお持ちなんですよね。
「OGU-CARGO(オグカーゴ)」ですね。
毎月第2金曜日に、小国町の役場前に出したり、あとは地区のお祭りだったり、要請があったところに出していきたいと思っています。私の仕事の視点で言うと、OGU-CARGOを出すことで、そこに集う場を作って、移住したい人向けの仕事や空き家の情報収集ができるという効果もあるんですよ。

確かに、コミュニケーションが取れるきっかけになりそうですね。
そうなんですよ。今までは、空き家を探すとなったら、ゼンリンの地図をコピーして、一軒一軒訪問していくんですよね。「すみません、空き家ないですか?」って。それでは、すごい怪しまれるし、単発で聞いていったところで、なかなか見つからないんですよ。でも、OGU-CARGOみたいに井戸端会議ができるような場を作って、その中でお聞きすると情報が集まってきたりします。
町の情報収集は地域おこし協力隊の重要なお仕事ですよね。
この移住定住のお仕事の面白さや、やりがいはどういったところだと思われますか。
移住者の方が入られて、少し前にお子さんが生まれたんです。その地区で子どもが生まれたのが、10年以上ぶりだと言われていて。小国町は小学校が1校しかないので、多くがスクールバスで通うんですよ。でも、その地区はスクールバスのバス停すら撤去されていたんですね。
そこに今回、子どもが生まれたことによって、「6年後には、またバス停が立つんだ」という話をすごく嬉しそうにされていて。別の地区でも、数年ぶりとかの新生児が生まれたらしくて。もう、その子はその地区のアイドル化しているらしいです。
やっぱり子どもは地域の宝なんですね。
本当に、その通りだと思いますね。
その嬉しそうに話される姿を見たときに、「私の仕事はこういう事なんだな。こういう町の人のささやかな幸せ、そういうのを作る仕事なんだ」と思って、頑張らなきゃなと思いました。移住定住に限らず、地域おこし協力隊として、地域の人に喜んでもらえるような場づくりだったり、活動を大切にしていきたいと思っています。
熊本県小国町地域おこし協力隊
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